PROJECTプロジェクト紹介

いのちを育む豊かな湿地

所在地: 松浦川中流部(佐賀県北部)
期 間: 2001年~2010年
発注者: 国土交通省 九州地方整備局 武雄河川事務所

一級河川松浦川 アザメの瀬自然再生事業

アザメの瀬は、佐賀県北部を流れる松浦川の中流部に位置します。面積は約6ha、延長約1,000m、幅約400m 。左岸側にはしっかりとした堤防が設置されています。一方、右岸側のアザメの瀬地区には堤防がありません。元々は水田でしたが、当時は毎年のように氾濫に見舞われる地区でした。こうした状況があるなか、2001年に自然再生推進法が成立し、国土交通省河川局では、自然再生事業を推し進めることになります。そこではじめて立ち上げられたのが「アザメの瀬自然再生事業」です。

前述のとおり、アザメの瀬地区は無堤地区であったため、はじめに治水対策として堤防方式や買収方式が検討されていました。しかし、最終的には用地買収を行い、遊水区域として河川敷地内に取り込み、維持管理を続けることが決まりました。増水時には水没しますが、これが当地区の最大の特徴でもあり自然再生の大事な要素にもなっています。

事業の目標は「氾濫原的湿地の再生」と「人と生き物の繋がりの再生」です。とくに前者は、「地域からの要望を踏まえ、十分な話し合いをもとに、地域を盛り上げながら実現を進める」という自然再生事業にふさわしい内容です。

氾濫原生態系自体は、航空写真を見ると幾何学な水路や池、棚田などがあり適当な形状に見えますが、地中も含めて意味のある設計となっています。出水により洪水、土砂、栄養塩、有機物、生物などが河川から移動、拡散することによって成り立っている生態系です。つまり、氾濫原では氾濫の頻度と攪乱が重要です。出水時には魚類がクリークに逃げ込み、ここで産卵し稚魚になり川へ戻ります。複数の池は人の立ち入りに差を付けたり、県内で最も多種のトンボが生息する池も設け、棚田や水路は里山の環境の復元を目指しました。

設計では仮説と効果検証を行い、工事の手直しができる順応的整備という考え方を取り入れました。最初は外来植物の繁茂に苦労しましたが、地域の愛護活動、子供たちの田植えや自然環境調査などの維持管理により、年々自然が豊かになってきました。

当社は、氾濫原的湿地の目標達成の考え方の検討、棚田やため池、クリークなど各所のデザイン形状検討から実施設計、工事中および完成後の環境モニタリング、工事誌を主に担当しています。

2007年に公益社団法人土木学会が主催する「土木学会環境賞」を受賞、2017年には完成から10 年以上の時を経て「土木学会デザイン賞2017」 の最優秀賞を受賞しました。

※アザメとはアザミの花の方言。昔はたくさん自生していたといわれています。