project story03

9月10日12時50分。
鬼怒川堤防の決壊?。
災害復旧に取り組む技術者たちの使命感。

東京本社 水工部 山部 一幸

東京本社 水工部

山部 一幸

2005年入社

前職もコンサルタントで設計の仕事をしていた山部。ここで、河川だけでなく橋梁や道路なども経験してきた。中でも、河川は「水理、土質、コンクリート、環境など、さまざまな要素に関わる面白い仕事」だと知り、河川に特化した仕事がしたいと思うようになった。どうせ河川をやるなら、大規模なプロジェクトに関われそうな企業が良いと思い、CTIへ。その言葉どおり、現在は多くの国家プロジェクトを経験しながら、河川のプロをめざす毎日。

平成27年9月9日。台風18号は関東地方に記録的な豪雨をもたらし、茨城・栃木・宮城の3県合計で14名もの死者を出した。これが後に「平成27年9月関東・東北豪雨」と呼ばれ、激甚災害に指定された大災害である。

同日、栃木県で降り続いた大雨は鬼怒川に流れ込み、10日早朝には上流の支川の堤防で越水が発生。当時、CTIさいたまオフィスで設計を担当していた山部一幸は、デスクのパソコンで常に鬼怒川の水位をチェックしていた。実は山部、建設コンサルタンツ協会の河川計画専門委員の任務も担っており、災害要請があれば直ぐに動ける準備はしていた。同日12時50分、ついに茨城県常総市で鬼怒川の堤防が決壊。濁流に流されそうな住宅の住人をヘリコプターで救助する様子はテレビでも中継された。そして20時頃、国土交通省から協会に支援依頼があり、20時30分、山部に正式に災害調査の連絡があった。

以前、山部はCTI東北支社で東日本大震災に遭遇し、その翌日、壊滅的な被害を受けた閖上(ゆりあげ)地区の被害調査を経験した経験者。調査業務の重要さは認識している。しかし、彼は敢えて即答を避けた。なぜなら、今、これだけ大規模な調査業務を受託すると、現時点で進めているすべての業務に負担となるからだ。自分だけの問題ではなく、チームのメンバーにも苦労を強いることになる。社会的使命とリーダーという立場の板挟みの中で、彼は悩んでいた。

SEQUENCE.01

災害翌日、そのメカニズムを調査する

国土交通省から要請のあった10日の夜には、社内の東京本社長と水工部長に相談。そして二人から「体制は確保する」と言ってもらい、翌11日、調査業務を受託することを建設コンサルタンツ協会に報告しました。災害調査の受託は決して二つ返事で了承できることではありません。全社の協力のもと災害支援要請を受けることとしました。

その後、12日には30名の調査チームを組織し、決壊場所の両岸を計8kmにわたって徒歩で流域の水位の痕跡をプロットしていきました。次にプロットのデータを元に、被害状況の把握と、決壊のメカニズムの検証を開始。災害調査によって分かったのは、洪水が堤防を越えていたことと、決壊後の堤防の外側に陥没ができていたということ。これは、越水によって堤防が決壊したことを示しています。つまり、まず川の水位が上がり、堤防の外に流れ出る。そして外側の砂が流出して土地が陥没し、そこに堤防の土が次々と落ちて浸食が進み、最終的に堤防全体が決壊したのだと考えました。

その後の調査中、付近の住民が撮影したビデオに決壊の瞬間が映っていることが分かり、決壊原因を確信しました。

SEQUENCE.02

事実を正確に伝える報告書

しかし、われわれの業務はそこで終わりません。次は国土交通省の鬼怒川堤防調査委員会に提出する書類を作成しなくてはなりませんでした。通常、調査委員会が一般に公開されることはほとんどありません。しかし鬼怒川堤防決壊は被害規模が大きかったために国民の注目度も高く、委員会をマスコミに公開するという形で行われました。すると、今まで以上に書類作成に時間がかかります。なにしろ、私たちの資料の文章や図表・写真が、そのままテレビや新聞で全国に公開されるのですから。今回はいつも以上に、言葉の一つひとつにまで気を付けました。

しかも、これだけ大規模な災害にもかかわらず、第1回目の調査委員会は発生からわずか18日後に行われました。さらに28年3月7日の第4回まで延べ4回の委員会が短期間に開催され、時間との戦いの日々でした。

嬉しかったのは、そんな状況なのに誰ひとり文句を言わなかったこと。実際は、みんな大変だったと思います。私も「もうそろそろ帰ったら?」と何度も口にしたものです。それでもみんなが頑張ったのは、全員で力を合わせて早く原因究明と災害対策をまとめ、少しでも被災された方たちのお役に立ちたいという使命感があったからだと思います。

SEQUENCE.03

未来の日本をつくる使命感と責任感

私は河川設計のプロになりたくてCTIに入社しました。でも、このプロジェクトにリーダーとして関わらせてもらって、単純に設計をするだけではダメだと痛感しました。河川のプロであるからには、どんな力が作用するのか、安定しているのか、どう壊れるのか、将来どうなるのかまできちんと考えてものづくりに取り組むことが大切だと思います。

そしてもう一つ、私たちの業務が社会的に与える影響の大きさも実感しています。確かに、私たちは被災した土地を調査し、データから堤防決壊のメカニズムを割り出しただけかも知れません。しかし、私たちの調査によって将来の日本人の生活の基盤となる新たな土木設計の基準が生まれると思うと、とても大きなやりがいと、そして大きな責任を感じます。

今回、鬼怒川の調査に行った時も、駐車場を探していたところ、被災地の方から「調査に来られたなら、ウチの敷地に停めてください。そして、一日も早く堤防を直してください」と言っていただきました。私たちが、そんな一人ひとりの生活を守っていきます。

SEQUENCE.04

国土交通省に認められた報告書

鬼怒川の堤防は、大雨にも対応できるように整備が進められてきました。異常気象という言葉が当たり前に使われる今日、従来とは異なる防災・減災対策が急務です。この災害の後、鬼怒川堤防調査委員会の知見が元となり、国土交通省から「水防災意識社会再構築ビジョン」が発表されました。これによって、より粘り強い構造の堤防整備に向けた全国的な取り組みがすでに始まっています。

でも、そのビジョンに私たちの名前は書かれていません。コンサルタントである私たちの仕事は、あくまでも事実を調査し、その事実に基づいて、安全な堤防や構造物を設計することなのですから。でも私たちのあの使命感が、未来の礎になっていくことは、心の中でとても嬉しく思っています。