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第14回 砂防分野

多様化・激甚化する土砂災害に最新の技術で立ち向かう

大阪本社 地圏環境部 砂防室長柳崎 剛

Profile

入社年:1997(平成9)年
略歴:農学部林学科修士課程修了後、新卒入社で大阪支社(当時)の河川計画系の部署に配属された後、地質部、河川部を経るなかで、砂防分野と河川分野の技術的経験を積む。その後、2006(平成18)年地圏環境部砂防室設立時に配属され、土砂災害対策の専門技術者としてハード・ソフト両面に幅広く従事。2014(平成26)年4月より同室長を務める。
専門:砂防分野の調査・計画・設計・観測全般に加え、大規模土砂災害の被害想定、危機管理、システム開発、衛星雨量や画像解析等の活用研究などに幅を広げる。他分野の技術者との連携、大学との技術開発を積極的に行い、新規業務開拓に多く取り組んできた。
趣味:サッカー。現役プレーヤーとして、週末はピッチで汗を流す。家族との映画鑑賞は大切な癒しのひと時となっている。

砂防分野の当社のこれまでの取り組みを教えてください。

頻発する土石流の流下と扇頂部の氾濫を防止するための砂防堰堤の計画検討のための実験

 私が入社した1997年は、砂防分野の専門部署は東京本社のみであり、砂防技術者の大部分はつくば市の実験所に集約されていました。私が配属された大阪支社(当時)では、河川系部署内に数名の班が配置され、河川系業務と兼任で対応している状況でした。
 そもそも当社の砂防部門は、1989年に財団法人建設技術研究所の技術者が株式会社建設技術研究所に転籍し、調査設計・実験業務を主に行っていました。その後、建設省土木研究所での最先端の実験業務で培った土砂移動現象の知見や基礎技術を活かして、調査、計画、設計業務の受注を広げていき、同時に2006年の大阪本社砂防室の設立など、地域展開も図ってきました。
 現在は、東京本社、大阪本社の各拠点に、九州支社、2010年にCTIグループ企業の一員となった株式会社地圏総合コンサルタントも加わり、土砂移動現象に関する解析・予測技術と実験を主軸に、土砂災害に関する予防対策や復旧対策などにかかわる調査・計画・設計・実験、火山噴火や深層崩壊などの大規模土砂災害に対する防災・減災対策に取り組んでいます。

砂防分野の今後の展開について教えてください。

 主なテーマとしては、「砂防設備の長寿命化」「大規模土砂災害・火山噴火緊急減災対策」「砂防水理模型実験・数値解析」があります。
 まず、砂防設備の長寿命化の取り組みは、砂防分野の展開における主要テーマのひとつです。砂防事業では、予算と社会条件などの制約により、新規設備の整備がなかなか進まない状況にある一方で、既存設備の老朽化への対応が課題となっています。砂防部門では、老朽化した砂防設備や技術基準の改訂によって現行基準を満たさない砂防設備の有効活用、設備点検技術の高度化と汎用化、補修・補強対策による長寿命化と改良・改築による機能向上などに取り組んでいます。土石流やがけ崩れなどの不確実性が高い現象に対し、設備の損傷実績を反映した確率論的手法などの方法により劣化速度を予測し、将来的に維持管理対象とする施設数と費用を最適化・平準化を図るなど、砂防設備の機能を恒常的に維持するための技術の確立を目指しています。
 次に、大規模土砂災害対策・火山噴火緊急減災対策への展開です。2011年の東日本大震災や紀伊半島大水害、2014年の広島市や丹波市での豪雨災害、そして今年の熊本地震に伴う土砂災害などに代表されるように、土砂災害は、集中豪雨、深層崩壊や天然ダム、地震、火山活動などの多様な事象に伴って毎年のように発生し、同時多発化、激甚化する傾向にあります。大規模土砂災害や火山噴火に伴う土砂災害に対し、災害発生時の被害予測、対策設備の整備、警戒避難体制と危機管理体制の強化、総合的な火山防災対策など、ハード・ソフトの両面より防災・減災技術の高度化に取り組んでいきます。
 最後に、砂防分野の原点である砂防水理模型実験と数値解析技術の一層の展開です。我が国の民間コンサルタントで実験施設を有する企業は数社に限られています。持ち味である水理模型実験技術と数値解析技術を駆使して、流木を伴う土石流、深層崩壊や天然ダムに伴う大規模な土砂移動現象などの理解を深めて効果的な対策を検討するといった、最新の研究解題にも積極的に取り組んでいきます。

多発する土石流・流木災害を軽減するための災害緩衝林と施設配置計画検討のための実験

隣接渓流で同時多発的に発生する土石流の影響を把握し再現性を検証するための実験

砂防分野のトピックスについて教えてください。

 深層崩壊に伴う大規模土石流の流下・堆積過程は、従来の土石流数値計算手法を用いても、その予測精度は十分ではないと報告されていました。この対応として、深層崩壊に起因する土石流中の細砂の挙動に着目した新たな数値計算手法を取り入れることで、より精度の高い大規模土石流の危険度評価を行うことが可能となりました。このテーマに取り組んだ技術者は、研究機関への出向や大学での研究を通じ、本人の頑張りはもちろんですが、出向先の皆様や先生方の良きご指導にも恵まれ、博士号を取得することができました。
 このほかにも、大学との共同研究に積極的に取り組み、天然ダムの決壊解析機能を実装した土石流解析ツール、深層崩壊土塊の挙動を追跡するための数値解析手法などの開発・適用化を進めています。また、新たな試みとして、数値解析手法や対策ツールのノウハウを活かした危機管理システムの開発にも取り組んでいます。例えば、直轄砂防事務所管内を対象に、天然ダム形成時の緊急対応を支援するための危機管理システムを構築しました。このシステムは、危機管理に関する解析ツールを統合化し、大規模土砂災害発生時の広域連携を可能としたところが評価され、2013年度に国土交通省近畿地方整備局から局長表彰をいただきました。
 また、砂防分野におけるCSR活動(企業の社会的責任)の一環として、砂防水理模型実験を活用し、地域住民および国民を対象に土砂・流木災害の現象と危険性を周知し、砂防事業の必要性を理解していただくための取り組みも行っています。例えば、近隣の小学5年生を対象に、理科の教材に示される土砂の侵食・運搬・堆積の現象を再現し、さらに土石流の危険性と砂防堰堤の機能を紹介するなど、校外学習授業のお手伝いを行っています。

砂防分野に携わる専門家として、仕事に対する信条などありましたら教えてください。

 二つあります。まずは、実際に現場に出て現象を把握することです。土石流は、かつては目撃されることが少ないため、実像不明の「幻の現象」と言われていました。近年では、偉大な先人の多くの努力と、技術の進歩により、現象の解明が進みつつありますが、学術的に理解しきれていない難しい事象が数多くあり、まだまだ課題の多い分野であると理解しています。数値解析手法が高度化・汎用化されつつありますが、得られた答えの妥当性を検証するためには、やはり現場をよく見て、あるいは模型実験を活用して対象とする現象の理解に努めることが基本であると考えています。
 もう一つは、産学官との連携を大切にすることです。土砂災害から生命と財産を完全に守ることは難しく、技術的課題はまだまだ山積しています。それらの課題解決のためには、技術者個人あるいは企業単体での取り組みでは限界があるため、産学官で課題を共有し、課題を解決するための技術開発に継続的に取り組む必要があります。たとえば日常業務や学会活動などを通じて、技術的ニーズや最先端の技術情報を入手し、技術開発を行い、現場に適用し、得た成果と課題を行政や大学・研究機関にお返しすることでさらに次のステップに進めるという「技術の社会還元サイクル」の活力となることが私たちの使命のひとつと考えています。私は入社以来、大阪でしか働いていないので他地域については詳しくありませんが、関西地域では、砂防分野の先生方の講義を所属大学や民間企業等の分け隔てなく受ける機会が設けられたり、定期的に研究発表会や現地検討会が行われたりするなど、大学の懐が広く、技術者を大切にして人材育成を図るという文化が育まれているように感じています。また、同業他社との交流が活発で、学会支部活動の運営やソフトボール大会などの企画を通じて親睦を深める機会が多く、ときにはライバルとして技術競争に切磋琢磨し、ときには魅力ある業界とするために熱い議論を交わしています。このような貴重な環境を大切にし、後進に引き継いで行きたいと思います。

渓流での現地調査の様子

深層崩壊斜面と堆積した崩土(奈良県十津川村栗平地区)

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