100 年先の人々にも選ばれるまちづくり
女川駅前シンボル空間/女川町震災復興事業 当社は東日本大震災直後から女川町の復興に携わってきました。災害によって町の機能の多くが失われてしまった女川町では、被災から1か月後に町の未来や地域の景観を考える民間組織である「女川町復興連絡協議会」が発足するとともに、住民参加による復興まちづくり推進組織として「女川町まちづくり推進協議会」が設置されました。その後設置された「女川町まちづくりワーキンググループ」(2012年6月)や「女川町復興まちづくりデザイン会議」(2013 年9 月)において、町長や役場職員をはじめ工事関係者や都市デザインの専門家、そして町民が集まり、空間の利活用やデザインについて協議、検討したものが本プロジェクトです。 女川駅前シンボル空間はデザインコンセプトを、「海を眺めてくらすまち」として、周辺の豊かな自然と調和し「100 年先の人々にも選ばれる都市空間」を目指して検討を重ねてきました。 女川駅前シンボル空間の骨格となる「レンガみち」は、女川駅と海(女川湾)をつなぐ歩行者プロムナードであるとともに、海が見える眺望軸として直線的にかたい印象とならないよう、さまざまな樹種で構成された並木や形の異なるベンチを配置し、帯状の公園としてデザインしています。また、舗装・ベンチ・植栽・照明などの空間構成要素を統一させ、海へと連続した空間となるようデザインしました。さらに、沿道建物の設計者と綿密にデザインを調整し、レンガみちと建物の舗装やデッキテラスなど、相互の機能が調和した一体感のある空間となっています。 町には居心地よく魅力的な空間がつくられ、いまでは、町民や観光客が賑わい、憩いの場となっています。こうした実績が評価され、本件は公益財団法人日本デザイン振興会主催「2018年度グッドデザイン賞」を受賞。「視覚的なだけでなく、体験としてシンボライズされる空間デザインの良さが、実際に訪れることで読み取れる」といった好評を受けました。 さらにその翌年には、公益社団法人土木学会主催の「土木学会デザイン賞2019」最優秀賞を受賞しました。高台に整備された安全な住宅地や、女川駅前レンガみち周辺に建てられたさまざまな施設がコンパクトな市街地を形成。このまちづくりが公民連携で行われたことと、ランドスケープデザイン自体が高評価となりました。
いのちを育む豊かな湿地
一級河川松浦川 アザメの瀬自然再生事業 アザメ※の瀬は、佐賀県北部を流れる松浦川の中流部に位置します。面積は約6ha、延長約1,000m、幅約400m 。左岸側にはしっかりとした堤防が設置されています。一方、右岸側のアザメの瀬地区には堤防がありません。元々は水田でしたが、当時は毎年のように氾濫に見舞われる地区でした。こうした状況があるなか、2001年に自然再生推進法が成立し、国土交通省河川局では、自然再生事業を推し進めることになります。そこではじめて立ち上げられたのが「アザメの瀬自然再生事業」です。 前述のとおり、アザメの瀬地区は無堤地区であったため、はじめに治水対策として堤防方式や買収方式が検討されていました。しかし、最終的には用地買収を行い、遊水区域として河川敷地内に取り込み、維持管理を続けることが決まりました。増水時には水没しますが、これが当地区の最大の特徴でもあり自然再生の大事な要素にもなっています。 事業の目標は「氾濫原的湿地の再生」と「人と生き物の繋がりの再生」です。とくに前者は、「地域からの要望を踏まえ、十分な話し合いをもとに、地域を盛り上げながら実現を進める」という自然再生事業にふさわしい内容です。 氾濫原生態系自体は、航空写真を見ると幾何学な水路や池、棚田などがあり適当な形状に見えますが、地中も含めて意味のある設計となっています。出水により洪水、土砂、栄養塩、有機物、生物などが河川から移動、拡散することによって成り立っている生態系です。つまり、氾濫原では氾濫の頻度と攪乱が重要です。出水時には魚類がクリークに逃げ込み、ここで産卵し稚魚になり川へ戻ります。複数の池は人の立ち入りに差を付けたり、県内で最も多種のトンボが生息する池も設け、棚田や水路は里山の環境の復元を目指しました。 設計では仮説と効果検証を行い、工事の手直しができる順応的整備という考え方を取り入れました。最初は外来植物の繁茂に苦労しましたが、地域の愛護活動、子供たちの田植えや自然環境調査などの維持管理により、年々自然が豊かになってきました。 当社は、氾濫原的湿地の目標達成の考え方の検討、棚田やため池、クリークなど各所のデザイン形状検討から実施設計、工事中および完成後の環境モニタリング、工事誌を主に担当しています。 2007年に公益社団法人土木学会が主催する「土木学会環境賞」を受賞、2017年には完成から10 年以上の時を経て「土木学会デザイン賞2017」 の最優秀賞を受賞しました。 ※アザメとはアザミの花の方言。昔はたくさん自生していたといわれています。
山口県で初!ホタルがいる川に再生
山口市一の坂川再生プロジェクト 室町時代、京を模して作られた山口市の街中を南北に流れる一の坂川は、京都の鴨川に見たてられていました。流路延長7km、流域面積10.5キロ平方メートルの2級河川です。一の坂川の周辺の町並みには中世の大内氏の繁栄が残り、歴史的なスポットとしても魅力的。さらに、昭和10年に国の天然記念物に指定されたゲンジホタル発生の地としても有名です。川沿いの各町内では、清掃等河川美化・愛護運動の定着もあり、地域みんなで一の坂川を汚さず、きれいにしていこうという奉仕活動も続けられています。1971年の台風19号の豪雨により氾濫した一の坂川は当時、管理する県により河川改修が計画されましたが、風致保存を望む地元からの意見との間で論議が起こり、工事の着工が見送られてきた経緯があります。治水優先の整備でコンクリート三面張りの河川となっていたこの一の坂川を、かつての姿に再生するため、山口県初となる生物に配慮した護岸工法を取り入れた整備を約15年に渡って建設技術研究所が担いました。河幅の拡張や河床を上下二層にする二層式河川などの基本案を策定し、河川再生に関連したゾーニングを検討。周辺の景観や生物に配慮した護岸設計などを担当しました。とくに、 護岸工法によって蘇った蛍の群舞は、地域住民はもちろん、山口県を訪れる人にとっても有名な観光スポットです。夏の風物詩として、地域に定着しています。その他にも、現在の一の坂川は、雪立木や桜など、四季折々の風情を景色へ映します。年間を通じて、地域住民をはじめとする多くの市民の憩いの場として親しまれています。
国交省直轄ダムで初採用された技術
鶴岡市月山ダム治水事業プロジェクト 月山ダムは、山形県鶴岡市の一級河川・赤川水系梵字川に建設されたダムです。赤川水系の河川は、急流となる上流部に比べ下流部が緩流であり、中流部より下流において歴史的に水害が繰り返されていました。その対策として1917年には赤川の河川の改良工事が行われたものの、水害は治まりませんでした。そこで次の治水事業の一環として計画されたのが月山ダムです。高さ123メートルの重力式コンクリート形式。洪水調節、流水の正常な機能の維持、そして発電はもちろん、当時は地下水を水道水の水源としていた鶴岡市をはじめとする庄内南部地域の安定した水源の確保を目的として2001年に完成しました。ダム湖の名称は「あさひ月山湖」で、湖を一望できる「あさひ月山湖展望広場」には静岡市出身の彫刻家である加藤豊の『月の女神』が、月山ダムを見守るように設置されています。月山ダムでは監査廊などダム内部の見学が可能となっています。希望者は月山ダム管理事務所に申し込みましょう。また、ダム堰堤の南側にある「月山ダム地域防災センター」には月山ダムの洪水防止機能を紹介した展示があります。建設技術研究所は、本体設計にプレキャスト型枠を積極的に利用し、施工計画・施工設備設計では、ダム本体のコンクリート打設に合理化施工法のひとつである「RCD工法」とコンクリートの運搬設備として「ベルトコンベアシステム」の併用を提案し、国土交通省直轄ダムで初めて採用されました。また、管理への移行後も2012年まで、ダム本体の管理に欠かせない地震計やプラムライン、揚圧力、漏水量、変位、ひずみ等、さまざまな堤体挙動の安定性の診断にホームドクターとして従事しました。
観光スポットとして有名な大阪のあの橋
大阪市戎橋架け替えプロジェクト 大阪の観光スポットとしても有名な戎橋。名称は「今宮村の戎神社(今宮戎神社)へ架かる橋」という意味に由来します。架橋以来、橋梁の修理・架け替えは13回にも及びました。1878年には鉄橋に、1925年には鉄筋コンクリートアーチ橋になりました。現在の橋梁は、2007年に完成しています。「水の都大阪」を掲げた道頓堀川水辺整備事業の一環として計画され、広く国内外を対象にデザインコンペを実施し、大阪ミナミの「へそ」をテーマとした最優秀作品に基づいて進められました。現在では、道頓堀の中心にあるメジャーな観光スポットです。グリコランナーが描かれている巨大看板やドン・キホーテの大観覧車など、これぞ大阪なんばといった風景を橋から見渡せます。戎橋は心斎橋商店街と恵比須橋商店街を結ぶ役割があります。道頓堀を訪れる観光客は、戎橋方面へ進み、道頓堀で食べ歩きを楽しみます。その後、商店街でショッピングを楽しんだり、戎橋で記念写真を撮ったりといったルートを定番にしています。橋の老朽化および飛び込みに対する対策などを理由に、架け替えが進められ、建設技術研究所は、詳細設計に従事し、川辺の遊歩道(ボードウォーク)との取り合いや歩行者の動線と安全を確保しながら、円形スロープやLED照明による水面の演出を忠実に再現しました。架け替えられた新しい戎橋は、円形を基本とした橋上広場で劇場性を表現しつつ、広場に沿ってスロープを取り入れることで、水辺へ降りながら移りゆく景色を眺める楽しさなどを考慮したデザインとなっています。
"水を貯めない"環境にやさしい治水専用ダム
長野市浅川ダムプロジェクト 浅川ダムは、長野市北部飯綱山が源となる延長約20kmの一級河川・信濃川水系浅川に建設されたダムです。長野市の新興市街地を流れ、千曲川に合流する中小河川でありながら、流れは急峻で、水害が頻発していました。そこで、洪水調節のみを目的とする高さ53メートルの重力コンクリート形式の流水型ダムとして、2017年に完成した長野県営の治水専用ダムです。ただし、浅川ダムの建設が行われるまでには右往左往の経緯がありました。2001年2月、当時の田中康夫長野県知事が「脱ダム宣言」を表明し、2002年6月の県議会において工事中止を表明したのが浅川ダムでした。検討対象になったのは浅川ダムだけでなく、信濃川水系の清川治水ダム、角間ダム、黒沢ダムなどが挙げられます。そして、浅川ダムを除くすべてが建設中止となりました。ダムに頼らない浅川の治水対策が検討され、河道内遊水地による検討などが行われたものの、結果的にダム建設を含む治水対策として方向転換の方針が打ち出されます。その後、治水専用ダムと河川改修の組み合わせによる治水計画が採用され、2010年5月、ようやく浅川ダムの着工がはじまります。この際、周辺の地質解析や貯水池の地すべり対策、環境調査、ダム本体の概略・詳細設計、施工計画など幅広い分野を担ったのが建設技術研究所です。普段はダムに水を貯めないため、土砂の流下や魚の遡上を妨げることがなく、富栄養化による水質悪化もありません。なお、常用洪水吐きと呼ばれる穴には、魚が遡上するための階段状の魚道が設けられています。このことから、浅川ダムのことを「穴あきダム」と呼ぶこともあります。一方、洪水時には貯水をはじめ、下流の被害を防ぎます。こうした特徴から浅川ダムは「環境にやさしいダム」といわれています。
田中賞を受賞した世界初の融合橋梁
長野原町不動大橋プロジェクト 長野原町の八ッ場あがつま湖に架かる全長590mの不動大橋。世界初の「鋼・コンクリート複合トラス・エクストラドーズド橋」として、2004年3月に着工されました。2009年鳩山由紀夫内閣により八ッ場ダムの建設中止が打ち出されたことで、マスコミに象徴的な施設として取り上げられましたが、八ッ場ダム建設に伴う付替県道の一部として計画は続行。群馬県側が事業継続を示したことに加え、国側が2010年に行われた住民の意識調査の結果を踏まえた際に、生活再建事業の一部として事業の継続を表明したという背景があります。そしてこの際の設計を、建設技術研究所が担当しました。工事中の名称は湖面2号橋でしたが、近隣の名滝「不動滝」にちなんで2010年に「不動大橋」と命名されました。その後、2011年の完成予定が同年3月発生の東日本大震災による影響で延期となった経緯があります。軽量かつ景観性に優れるという特徴を持つ「PC複合トラス」と材料を軽減しコストダウンを図ることが可能な「エクストラドーズド橋」の技術を融合させ、複合橋梁を建設するための技術的発展に大きく貢献したと評価されたことから、不動大橋は2010年土木学会田中賞を受賞しました。ちなみに、「PC複合トラス」と「エクストラドーズド橋」を融合することにより、国内のPC複合トラス橋としては、最小の桁高(6m)と最長のスパン(155m)を実現しています。
日本最大級の淀川大堰の設計・施工計画
大阪市淀川大堰プロジェクト 琵琶湖から大阪湾に注ぐ唯一の河川である淀川。その最下流に位置する淀川大堰が建設されたのは1983年のことです。大阪の急激な人口増加による下水道整備の遅れにより、大阪市内の河川の水質が悪化。いわゆるドブ川状態だった状況の改善を行うべく造られました。この際、建設技術研究所は淀川大堰の本体設計、施工計画などを担当しました。なお、2004年度には耐震および対津波補強に関する設計など、堰の維持管理についても担当しています。 淀川大堰は、国内最大級の径間の長さ(橋構造物の支点と支点の距離。さしわたし)668mを有する潮止・取水堰で、開閉式のゲートによって水位調節が可能な可動堰として、大阪府と兵庫県への上水道と工業用水道供給を目的に国土交通省近畿地方整備局と独立行政法人水資源機構が共同で管理しています。大阪府と兵庫県への上下水道および工業用水道の供給が現在の目的です。上下水道と工業用水道に関しては20トン/秒もの用水が供給されています。一方、不特定利水には大阪湾の満潮時に100トン/秒、干潮時に40トン/秒を調整しながら放流します。また、水量調整によって人工的な洪水を起こし、汚水を大阪湾へと流すことで水質汚濁を改善する「フラッシュ放流」も淀川大堰は対応可能です。