2024.08.08
技術・研究
当社は、手作業が多く、人為的なミスが生じやすい橋梁耐震補強設計に関して、ミスを未然に防ぐことを目的に、耐震補強設計支援システムを開発しました。
1.背景
橋梁耐震補強設計では、貸与された既設橋資料の読み取り難さにより、誤った条件で設計してしまうリスクや、設計条件を手入力する際に誤入力してしまうリスクが内在しています。これらのミスを防ぐためには、正確な資料の理解と、設計計算における正確な条件反映が不可欠です(図-1参照)。また、一度ミスが発生すると、その修正には多大な時間と費用がかかるだけでなく、社会全体に多大なる影響を及ぼす可能性があります。そのため、橋梁耐震補強設計におけるミス防止対策が急務となっています。
当社はこの課題に対処するために、「耐震補強設計支援システム」を開発しました。このシステムは、設計条件と入力条件の整合チェックや、設計荷重の妥当性確認を自動化・簡易化し、品質を確保しつつミスなく短時間で設計成果を提供することで効率的なインフラ維持管理に貢献することを目的としています。
図-1 耐震補強設計のミスが生じやすい箇所
2.耐震補強設計支援システムの特徴、詳細
「耐震補強設計支援システム(図-2参照)」では、以下の4つのツールを開発し、「手入力における写し間違いなどのミスの減少」「生産過程の効率化・自動化による照査時間の確保」「第三者による照査の簡易化」を実現しました。
① 死荷重反力チェック支援ツール
耐震補強設計では、死荷重反力が重要な設計条件です。その死荷重反力については、設計当時の報告書や図面から引用することが多く、引用ミスが重大な欠陥につながる可能性があります。このツールでは、特に使用頻度の高い橋種(鋼橋の鈑桁・箱桁、コンクリート橋の中空床版・箱桁・T桁)の死荷重反力を上部工の形状から算出し、引用した値の妥当性をチェックできます。
② 基本条件表作成支援ツール
設計条件整理や電算ソフト入力の誤認識・誤入力を防ぐことを目的に開発したこのツールは、後述する「③配筋詳細情報作成支援ツール」で作成した配筋情報から設計条件表を自動作成します。設計条件表は、第三者がミスを発見しやすいように配慮したフォーマットを採用しました。
③ 配筋詳細情報作成支援ツール
既設橋下部構造の鉄筋径や本数、断面変化などの配筋情報においては、複雑であるがゆえに、その整理に多くの時間を要します。また、電算ソフトに入力する際に転記ミスが生じる可能性があります。そのため、配筋情報を電算ソフトの入力フォーマットに自動変換することで正確な入力を支援します。
④ 照査結果表作成支援ツール
耐震補強設計の解析結果では、膨大な電算アウトプットから、必要な情報を結果一覧表に手作業で入力することが多いため、多くの時間を要するだけでなく、転記ミスが生じる可能性があります。そのため、解析結果を自動で照査結果一覧表に出力するツールを開発しました。これにより、作業時間の短縮と精度向上を実現します。
図-2 耐震補強設計システムの特徴
3.今後の展望
今後、実務での運用を通じ、更なる汎用性と自動化による機能の拡充を行い、耐震補強設計の生産効率化を図ります。また、解析結果を図やグラフなどに変換し、ミスに気づくための「見える化」にも配慮したシステムとして発展させ、安全なインフラ整備のための高品質な成果の提供を通じて社会貢献してまいります。