環境・社会分野のAI・ICT研究
AIによる公共空間の利用状況把握 商業施設、公園、バス停などの公共空間には、常にさまざまな人が集まり・利用しています。より良い空間づくりに向けては、これらの利用状況を定期的に把握することが重要です。従来は作業員による目視観測で把握していますが、時間・コストの両面で負担が大きいという課題があります。 本研究では、カメラ映像から利用者数・滞在時間などを検知・定量化するAI技術を開発し、現場での実証実験を実施した上で有効性を確認しています。これにより、公共空間の利用状況把握を効率化し、現状の課題分析や改善策の検討への貢献が期待できます。 AIによる人流軌跡検知 交差点や公園、工場など多数の人が移動する場面では、人流を把握することが重要です。それにより、最適な施設配置や効率的な誘導などの対策に貢献できます。一方で、人流の目視追跡には多大な労力を要するため、現実的ではありません。 本研究では、広範囲に撮影した複数のカメラ映像を対象に、AIで人を検知し、その移動軌跡を予測しながら、地図上に人流を可視化する技術を開発しています。これにより、効率的な人流把握が可能となります。 電力需要量と太陽光発電量の予測AI ビルの省エネ対策として、屋上で太陽光発電を実施し、消費電力量を可視化するエネルギー・マネジメント・システム(EMS)の導入が推進されています。一方で、一般的なEMSは、発電量や消費電力量の計測・可視化にとどまり、将来の発電量や電力需要量を予測するまでには至っていません。 本研究では、気象予報値や滞在人数などを基に、34時間後までの電力需要量と太陽光発電量を予測するAIを開発しています。それにより、余剰電力の効率的な売却、安価な夜間電力による蓄電池充電などの操作が可能となります。また、AI未使用の場合と比較して、年間で約2割の電力量料金の削減が期待できます。 IoTシステムの開発 Society5.0の社会では、ヒトとモノがインターネットにつながることでさまざまな情報が共有され、社会の課題解決や新たな価値の創出が期待されています。現状、IoTに関するサービスやビジネスは多数存在しますが、機能・コスト面での課題もあります。 本研究では、センサ類、通信方法、Webシステムなどについて調査・検討し、当社独自のIoTシステムを開発しています。さらに、社内ニーズに応じた実証実験を行い、調査業務の低コスト化、分析の高精度化など、社内業務の効率化・高度化に貢献しています。
交通・都市分野のAI・ICT研究
道路監視効率化に向けた車両の行動解析AI 道路施設には日常監視や被災時の状況把握などを目的に、多数のカメラが設置されています。一方で、交通事故対策の観点からカメラ映像を人が常時確認し、ヒヤリハット(重大な災害や事故に直結する一歩手前の事象)を把握することは困難です。 その解決策として、カメラ映像から車両や人の正確な位置を推定するAIを開発しています。これにより、走行軌跡、車両・人の距離が把握でき、ヒヤリハット検知が可能となります。今後は、3Dモデルを活用したシミュレーションなどのDX分野に展開する予定です。 橋梁健全度の予測AI 予防保全型の橋梁補修のためには、損傷が進展する部材を事前に把握し、早期の措置が必要です。現状では、損傷が進展してから補修する事後保全型の措置となるケースが多く、補修費用の増大が課題となっています。 本研究では、今回点検の結果である損傷写真(画像)と点検調書(文章)のデータから、次回点検時の橋梁健全度を予測するAIを開発しています。これにより、予防保全型の補修計画が立案できるため、補修費用を抑えることが可能になります。 AIによる高速道路伸縮装置の損傷診断 我が国の道路構造物の多くは高度経済成長期に集中的に整備されており、老朽化が急速に進行しています。一方で、近年の急速な少子高齢化に伴い、道路構造物のメンテナンスを行う技術者や作業者が減少し、大きな社会問題となっています. 本研究では、高速道路のメンテナンス作業効率化を目的に、AIを活用した伸縮装置の損傷診断モデルを開発しています。さらに、モデルの試験運用を実際の高速道路で実施し、目視確認前の一次スクリーニングに有効であることを検証済みです。 オリジナルの3Dオブジェクト作成 BIM・CIMやデジタルツインの分野では、3DCADのような正確な寸法を再現する以外に、写真や地図から気軽に3Dモデルを作成するニーズがあります。Web上には多数の3Dオブジェクトが公開されていますが、建設・土木分野のオブジェクトは少なく、データサイズも大きいため利用しづらい課題を抱えています。 当社では、建設資材などの3Dオブジェクトを独自に作成しています。プライバシーを考慮した上で手軽にバーチャル空間を作り、まちづくり計画や改善のシミュレーションなどに活用することができます。
河川・砂防分野のAI・ICT研究
河川空間の迷惑・不法行為検知AI 河川空間は、自然の豊かさや文化景観を享受できる貴重なオープンスペースです。一方で、親しみのある空間であるがゆえに、ごみの不法投棄、違法・迷惑駐車などの迷惑・不法行為が多発し、現状復旧や注意喚起などの業務が管理者の負担となっています。 その解決策として、公共空間管理の高度化・省力化を目的とし、AIを活用した迷惑・不法行為の検知技術を開発しています。さらに、実際の河川空間を対象に、本技術を実装した監視システムによる実証実験を実施した結果、迷惑・不法行為のほとんどを見逃さず検知し、全国の河川管理の高度化・省力化に有効となり得る可能性を示しています。 インフラ施工時の景観写真生成AI 橋梁や堤防などのインフラを施工する際には、国・自治体や地域住民との間で施工イメージを共有し、景観への影響を検討することが重要です。従来では、設計者やデザイナーが作成した図面などを参考にしていましたが、イメージ共有が難しく、効果的な議論ができないケースが多くあります。 本研究では、インフラ施工時の景観写真を生成するAIを開発しています。世界中のあらゆる画像を学習した、既存の画像生成AI(DALL-E、Stable Diffusionなど)とは異なり、日本式のインフラを専門的に学習した生成AIであるため、国内のニーズにマッチした景観検討への適用が可能です。 AIによる砂防施設の変状抽出 砂防施設を点検する際には、主に人の目により変状箇所を抽出し、健全度を評価しています。一方で、砂防施設は急峻な山間地に整備され、安全性や効率性の観点から施設全体を網羅的、客観的に変状を把握し、健全度を評価することが困難でした。 本研究では、砂防施設の変状抽出を可能にするAIを開発しています。今後も継続して、砂防施設点検に取り込んだ点検手法の検討を行うことにより、更に効率化が図れると考えます。
レーザー打音検査装置の社会実装
人の手に頼らないロボット点検技術 従来、トンネルなどの保守保全作業のうち、点検は専門技術者の目視確認や打音検査により行われ、多くの手間や時間がかかるとともに作業中のつい落などの危険性が伴うものでした。また、打音検査を実施できる技術者不足も今後懸念され、これを補完・支援するための遠隔・非接触計測技術の社会実装が強く求められていました。こうしたニーズに応えるため、ハンマーの代わりに覆工コンクリートを振動させる「振動励起レーザー」と耳の代わりに振動を計測する「振動計測レーザー」の2種類のレーザーを用いて、打音検査を遠隔・デジタル化する「レーザー打音技術」の研究開発を進め本格的な社会実装に向け準備を進めてきました。 打音検査を遠隔・デジタル化することで安全確保と個人の技量差を解消 「レーザー打音検査装置」による計測では、技術者が危険な高所作業で打音検査を行う必要がなく本質的な安全が確保されるとともに、個人の技量差を解消することができます。さらに本装置で計測することにより、コンクリート損傷の診断品質が向上するとともに、トンネル健全性に関して定量的に記録を残すことができ、例えば数年前の記録と比較することで、コンクリートのはく落につながる劣化の進行度を診断することが期待できます。このような記録を継続的に取得することで、定量的な内部損傷等の経年変化の把握や劣化の進行把握も可能になり、点検・維持管理活動の効率化、高度化に寄与します。「レーザー打音検査装置」は、トンネルの覆工コンクリートに着目して開発されたものですが、今後はさまざまなインフラ構造物などへの適用を進めるとともに、人の手だけに頼らない安全で確実な点検ロボットの実現に向けた開発を進めていきます。 この技術は、以下の媒体に掲載されました。 ◆朝日新聞 承諾番号:22-098 ◆朝日新聞デジタルWeb ◆朝日新聞社YouTubeチャンネル
RisKma流域水循環予測情報サービス
36時間先まで予測する水災害リアルタイム地図情報サービス 『RisKma』(水災害リスクマッピングシステム)は、近年頻発するゲリラ豪雨や集中豪雨などを予測し、それに起因する水災害の発生リスク情報をリアルタイムで発信するWebサービスです。一般ユーザーの方でも、ブラウザなどでアクセスしていただくことで、マップ上に表示される雨量予報や浸水リスク、ゲリラ豪雨予報などをご覧いただけます(無料)。現在の機能では、36時間先までの雨量分布予報が可能です。また、累加雨量分布を5分間隔で配信するため、現在の状況がリアルタイムで把握できます。浸⽔リスクに対しては、ゲリラ豪⾬による内⽔氾濫のリスク情報や、バーチャル⽔⾯マップの表⽰があります。内水氾濫は、リアルタイムかつ60分先までの浸水リスクの解析・予測情報を、全国250mメッシュで5分おきに提供しています。バーチャル水面マップでは、任意の場所の標⾼と、近隣のリアルタイムの河川⽔位を拡張した⽔⾯との標⾼差が表現されます。ゲリラ豪雨予報については、関東・北陸・中部地域を対象とし、2~3時間先までの豪雨情報を表示します。なお、これらの水災害リスクが発生した際には、情報をメールで配信するサービスも同時に展開。ユーザーに対して、リアルタイムな内水氾濫・ゲリラ豪雨リスクを伝えます。 流域水循環モデルの構築と自治体・法人向けサービス 当社では、西日本の四国全域を対象として流域水循環モデルを構築し、1ヶ月先までの渇水予測情報を提供できるシステムを構築しました。流域水循環モデルは、分布型流出解析モデルとUNSAF地下水モデルをカップリングしています。これにより渇水リスクの情報提供が実現。水資源の管理者による効果的な渇水対策の実施に貢献します。現在、このプラットフォームを発展させて、洪水時だけでなく平常時・渇水時の施設のオペレーションや河川利用に役立つ情報を提供するシステムを開発しています。そのほか、当社では自治体や法人向けに、豪雨・洪水・内水対策に対する水災害対策コンサルティングや、RisKmaの水災害関連データの提供を行っております。洪水浸水想定区域図や営業拠点登録、洪水警戒危険度分布、土砂災害警戒地域、数値データによる情報配信など、幅広い機能をカスタマイズしてご活用いただけます。
下水道雨天時浸入水検知システムの開発
費用も時間も大幅削減〜特許:下水道雨天時浸入水検知システムの開発 大雨などが降ると下水道管路施設から水が溢れ出すことがあります。原因はさまざまですが、たとえば下水管の老朽化によってヒビやすき間ができていたり、マンホール蓋に破損があったりする場合、そこに雨天時浸入水(※)が流れ込む事態が引き起こされ、前述の現象が起こるのです。※雨天時浸入水とは、分流式下水道の汚水管に雨天時に浸入する水や、地下水位以下に埋設された汚水管に浸入する水などのこと 雨天時浸入水の放置は多くのデメリットを生み出します。たとえば計画量以上の水が流れ込んでしまうと、浸水被害やポンプ場に大きな負荷がかかります。さらに、土砂堆積などが雨天時浸入水と一緒に引き込まれると、浚渫費等の管路施設維持管理の増大にもつながるでしょう。そのほか、市町村で増大した雨天侵入水によって流域負担金の増加も考えられます。雨天時浸入水によって下水道処理場への流入量が増えると、それを処理するための費用も大きくなり、結果下水道経営の圧迫にもつながります。しかし、従来の流量計や水位計を用いた下水道の雨天時浸入水検知には高額の調査・分析費がかかるため、調査範囲を限定するしかありませんでした。こうした背景を踏まえ、当社は雨天時浸入水を安価で迅速に検知することを目的に技術開発をスタートさせました。 音響データによる機械学習モデルで雨天時浸入水を予測・検知 雨天時浸入水の検知を行うために、当社は音声データに着目しました。具体的には、流水音を含む音響データの音響特徴量パターンや、無降雨時の流水音を含む音響データと、無降雨時とは異なる条件下での流水音の音響データ、その一方もしくは両方から抽出された音響特徴量パターンなどを、機械学習を使いモデル化。観測データと照合させ、雨天時浸入水の有無をAIなどを使い予測・検知します。導入後、調査及び分析費用が従来比50%程度削減できたうえに、AIを用いることで分析時間も大幅に短縮されました。この下水道雨天時浸入水検知システム研究の成果は、国土交通省の実証事業で評価を受け、特許査定を得ることもできました。 特許番号 特願2018-207773発明名称 不明水検出装置、不明水検出方法、プログラム及び不明水検出システム※国立研究開発法人産業技術総合研究所と共同特許 ◆第5回インフラメンテナンス大賞「特別賞」(国土交通省)受賞◆電波タイムズ紙(2022年3月11日 金曜日 朝刊)で紹介されました(PDF)
日本橋地域の新たな魅力創出プロジェクト
土木・まちづくり視点からの地域貢献! 東京・日本橋地域の新たな魅力創出に向けて ※弊社独自の研究として取り組んだもので、他の機関・団体は一切関係ありません。 建設技術研究所は、一般社団法人日本橋浜町エリアマネジメントの正会員として、本社が位置する浜町・人形町地域の魅力向上のため、土木・まちづくり視点からの地域貢献活動を行っています。例えば、地形・地質の成り立ちを分析したうえで、地域らしい風景の抽出、埋め立てられた浜町川の水辺復活の技術検討、スーパー堤防などの技術・法令を踏まえた浜町・隅田川一帯構想の提案などを行い、これらの成果を、日本橋地域の過去・現在を知る小冊子『日本橋地域(浜町・人形町) 歴史・文化の再発見と新たな魅力創出』としてとりまとめました。日本橋周辺では、首都高速道路の地下化などが脚光を浴びる一方で、まだ広く知られずに埋もれている地域資源・地域文化が残されています。その奥深い歴史、誇るべき文化の形成過程を、建設技術研究所らしい土木・まちづくりの視点から分析し、その隠れた魅力を解き明かすことにより、日本橋地域がより一層魅力あるまちとして持続的に発展するための可能性を提案し続けています。 日本橋地域魅力復活プロジェクト 2018~2019年の「日本橋地域特性研究」のなかで、「日本橋地域魅力復活プロジェクト」と題した章を設け、日本橋の魅力を再発見する取り組みを行いました。 ■景観・観光スポット発掘の調査研究日本橋をさまざまな角度から捉え、最終的には「日本橋風景10選」をピックアップしました。この選考前には、日本橋地域らしさの評価や、日本橋地域らしい風景の抽出などを行っています。 1.浜町公園(清正公寺)2.水天宮3.日本橋七福神(小網神社ほか)4.トルナーレ広場(新しい地域交流拠点)5.浜町緑道(浜町川復活)6.清洲橋7.大観音寺に続く町並み8.蛎殻町公園(旧有馬邸)と有馬小学校(元復興小学校)9.明治座10.隅田川プロムナード
物流研究会について
災害時やパンデミック時に重要性がさらに高まる物流について、道路交通計画や防災計画の視点から研究 当社は、苦瀬博仁研究顧問(東京海洋大学名誉教授)のご指導のもと、都市・地域の発展や災害時、パンデミック時に欠かすことのできない物流の重要性や必要性から道路交通計画の方法論ならびに災害時に備えたインフラストラクチャーやライフラインの防災計画などを研究する物流研究会を定期的に開催しています。これまでの主な研究成果は、苦瀬研究顧問の監修のもと当社社員が執筆した書籍「物流からみた道路交通計画」(大成出版社:2014年2月発行)、ならびに当書籍に新たな知見を加えて苦瀬研究顧問から当社社員にわたりリレー形式で執筆した輸送経済新聞のリレー連載「物流からみた道路交通計画(全12回)」(2015年9月~2016年6月)などがあげられます。また、これらの研究成果については、社内外でセミナーを開催するなど情報発信も積極的に行っています。ますます深刻化する多様な課題を解決すべく研究に取り組んでいます。 新聞連載「物流から見た道路交通計画」