環境・社会分野のインフラ管理用AI技術研究
公共空間の迷惑・不法行為検知 河川や公園などの公共空間は、自然の豊かさや文化景観を享受できる貴重なオープンスペースです。一方で、親しみのある空間であるがゆえに、ごみの不法投棄、違法・迷惑駐車などの迷惑・不法行為が多発し、現状復旧や注意喚起などの業務が管理者の負担となっています。その解決策として、公共空間管理の高度化・省力化を目的とし、AIを活用した迷惑・不法行為の検知技術を開発しています。さらに、実際の河川空間を対象に、本技術を実装した監視システムによる実証実験を実施した結果、迷惑・不法行為のほとんどを見逃さず検知し、全国の河川管理の高度化・省力化にAIが有効な技術となり得る可能性を示すことができました。 自然および人工の異常現象の検知 近年、激甚化・頻発化する豪雨災害や工場から流出した化学物質が原因となる水質事故等異常現象が発生しています。これらを防ぐため、インフラ管理者・施設管理者がカメラやIoTセンサなどを活用した監視を実施していますが、休日・夜間を問わない継続的な監視が必要となっており、監視人員の配置、監視手法が課題となっています。本研究では、インフラ監視・施設管理の効率化を目的とし、AIを活用した異常現象検知技術を開発しています。AIが事務所のCCTVカメラ映像やWeb上に公開されているカメラ画像から河川の溢水、火山の噴火、水質異常などの異常現象を検知し、管理者にアラートを発報することが可能です。これにより、インフラ管理者・施設管理者の監視作業の効率化・省力化に寄与することが期待されます。 メタバース利活用 仮想空間上で自由に行動できる「メタバース」は、ゲームやアニメだけでなく、ビジネスの分野でも活躍し始めています。建設・土木分野においても、公共施設の建設工事に先立って、その完成後の世界をメタバース上に造ることで、工事を着手する前に住民の方々が体験し、その景観をイメージできる、合意形成ツールとしての活用が期待されています。本研究では、上記のツール開発に加えて、河川堤防や橋梁の損傷をメタバース上で「見える化」する技術を開発しています。河川堤防等を撮影した空中写真や測量結果を基に3次元の点群データに変換し、その配置から地形の凸凹を判別することで変状を自動的に発見し、メタバース上に反映する技術です。これまでは人が歩いて見つけるしかなかった点検作業が自動化され、また見落とし防止が期待できる、維持管理分野の高度化に貢献する研究です。
交通・都市分野のインフラ管理用AI技術研究
AIを活用したリアルタイム渋滞予測 渋滞によって失われる時間は、年間一人当たり約40時間といわれています。渋滞が発生することで、このような時間の損失だけでなく、道路の快適性の低下、燃料消費量の増加、排気ガスによる環境負荷の増大といったさまざまな問題を引き起こします。その解決策として、交通量や走行速度等の情報から、数十分後、数時間後の渋滞時間を予測するAI技術を開発しています。渋滞時間の予測結果をリアルタイムに道路利用者へ提供し、迂回を促すことで渋滞緩和へ寄与することが期待されます。 AIによるバスターミナル空間の利用状況把握 バスターミナルは、歩行者、バス乗客者、商業施設利用者など、さまざまな人が集まる空間です。しかしながら、時間帯によってはその貴重なスペースを十分に有効活用できていないため、高度利用に向けた利用状況の把握が課題となっています。本研究では、ターミナル空間の利用状況を効率的に把握するAI技術を開発しています。これにより、低利用空間およびその時間帯などを自動的に特定し、高度利用への可能性を検証することで賑わいのあるスマートなまちづくりへの提案を行っています。 ナンバープレート検知およびモザイク処理 道路施設の管理作業は、日常的な監視や維持管理、緊急時における状況把握や情報提供など、非常に多岐にわたります。一方で、近年の少子高齢化に伴う人手不足の影響により、日常的な管理作業が管理者の負担となっています。その解決策として、担当者の負担軽減と作業効率化を目的に、道路管理用カメラ映像からナンバープレートを判読するAI技術を開発しています。また、個人情報保護の観点から、個人の特定につながるような情報にはモザイク加工を行う技術も併せて開発しています。
河川・砂防分野のインフラ管理用AI技術研究
AIを用いたダムの最適操作 ダムの操作は、治水(災害の発生の防止又は軽減)と利水(発電などへの貯留水の利用)のバランスを考える必要があります。そのための操作方法として、予測雨量を用いて将来の川の流量を予測し、放流操作を行うことが一般的です。しかし、予測雨量の精度は完璧ではなく、予測が大きく外れることもあります。このような場合に予測雨量を信頼してダム操作を実施すると、下流での災害や発電用貯水量の不足が発生する危険性があります。本研究では、予測雨量の精度を考慮して、損失を最小限にするAI技術を開発しています。 ダムの異常検知 構造物はいずれ劣化します。インフラも例外ではありません。そのため、多くのインフラでは、構造物が健全かどうかを把握するため、さまざまなデータを取得しています。特に、近年はICTの発展とともに取得できるデータの量が多くなり、精度も向上しています。ただし、これらのデータの多くは、人が目視で正常か異常かを判断しています。本研究では、取得されたデータを活用して、これまで人が目視や経験で判断していた異常判定を、定量的に漏れなく検知できるAI技術を開発しています。本技術は、ダムに限らず、今後さまざまなインフラに適用し、維持管理の効率化が期待されます。 砂防施設の変状自動抽出 これまで砂防施設の点検を実施する際には人の目により変状箇所を抽出し、健全度を評価してきました。しかし、砂防施設は急峻な山間地に整備され、安全性や効率性の観点から施設全体を網羅的、客観的に変状を把握し、健全度を評価することが困難でした。一方、近年AI画像解析やUAV画像取得等の関連技術が発達しており、かつ将来にわたる大量の点検データ蓄積を考慮すると、これらの新技術を適切に組み合わせて、デジタルトランスフォーメーション(DX)による効果的な維持管理を推進することが重要です。本研究では、砂防施設の変状自動抽出を可能にするAI技術を開発しています。今後も継続して、砂防施設点検に取り込んだ点検手法の検討を行うことにより、より効率的な砂防施設点検が可能になると考えます。
レーザー打音検査装置の社会実装
人の手に頼らないロボット点検技術 従来、トンネルなどの保守保全作業のうち、点検は専門技術者の目視確認や打音検査により行われ、多くの手間や時間がかかるとともに作業中のつい落などの危険性が伴うものでした。また、打音検査を実施できる技術者不足も今後懸念され、これを補完・支援するための遠隔・非接触計測技術の社会実装が強く求められていました。こうしたニーズに応えるため、ハンマーの代わりに覆工コンクリートを振動させる「振動励起レーザー」と耳の代わりに振動を計測する「振動計測レーザー」の2種類のレーザーを用いて、打音検査を遠隔・デジタル化する「レーザー打音技術」の研究開発を進め本格的な社会実装に向け準備を進めてきました。 打音検査を遠隔・デジタル化することで安全確保と個人の技量差を解消 「レーザー打音検査装置」による計測では、技術者が危険な高所作業で打音検査を行う必要がなく本質的な安全が確保されるとともに、個人の技量差を解消することができます。さらに本装置で計測することにより、コンクリート損傷の診断品質が向上するとともに、トンネル健全性に関して定量的に記録を残すことができ、例えば数年前の記録と比較することで、コンクリートのはく落につながる劣化の進行度を診断することが期待できます。このような記録を継続的に取得することで、定量的な内部損傷等の経年変化の把握や劣化の進行把握も可能になり、点検・維持管理活動の効率化、高度化に寄与します。「レーザー打音検査装置」は、トンネルの覆工コンクリートに着目して開発されたものですが、今後はさまざまなインフラ構造物などへの適用を進めるとともに、人の手だけに頼らない安全で確実な点検ロボットの実現に向けた開発を進めていきます。 この技術は、以下の媒体に掲載されました。 ◆朝日新聞 承諾番号:22-098 ◆朝日新聞デジタルWeb ◆朝日新聞社YouTubeチャンネル
RisKma流域水循環予測情報サービス
36時間先まで予測する水災害リアルタイム地図情報サービス 『RisKma』(水災害リスクマッピングシステム)は、近年頻発するゲリラ豪雨や集中豪雨などを予測し、それに起因する水災害の発生リスク情報をリアルタイムで発信するWebサービスです。一般ユーザーの方でも、ブラウザなどでアクセスしていただくことで、マップ上に表示される雨量予報や浸水リスク、ゲリラ豪雨予報などをご覧いただけます(無料)。現在の機能では、36時間先までの雨量分布予報が可能です。また、累加雨量分布を5分間隔で配信するため、現在の状況がリアルタイムで把握できます。浸⽔リスクに対しては、ゲリラ豪⾬による内⽔氾濫のリスク情報や、バーチャル⽔⾯マップの表⽰があります。内水氾濫は、リアルタイムかつ60分先までの浸水リスクの解析・予測情報を、全国250mメッシュで5分おきに提供しています。バーチャル水面マップでは、任意の場所の標⾼と、近隣のリアルタイムの河川⽔位を拡張した⽔⾯との標⾼差が表現されます。ゲリラ豪雨予報については、関東・北陸・中部地域を対象とし、2~3時間先までの豪雨情報を表示します。なお、これらの水災害リスクが発生した際には、情報をメールで配信するサービスも同時に展開。ユーザーに対して、リアルタイムな内水氾濫・ゲリラ豪雨リスクを伝えます。 流域水循環モデルの構築と自治体・法人向けサービス 当社では、西日本の四国全域を対象として流域水循環モデルを構築し、1ヶ月先までの渇水予測情報を提供できるシステムを構築しました。流域水循環モデルは、分布型流出解析モデルとUNSAF地下水モデルをカップリングしています。これにより渇水リスクの情報提供が実現。水資源の管理者による効果的な渇水対策の実施に貢献します。現在、このプラットフォームを発展させて、洪水時だけでなく平常時・渇水時の施設のオペレーションや河川利用に役立つ情報を提供するシステムを開発しています。そのほか、当社では自治体や法人向けに、豪雨・洪水・内水対策に対する水災害対策コンサルティングや、RisKmaの水災害関連データの提供を行っております。洪水浸水想定区域図や営業拠点登録、洪水警戒危険度分布、土砂災害警戒地域、数値データによる情報配信など、幅広い機能をカスタマイズしてご活用いただけます。
下水道雨天時浸入水検知システムの開発
費用も時間も大幅削減〜特許:下水道雨天時浸入水検知システムの開発 大雨などが降ると下水道管路施設から水が溢れ出すことがあります。原因はさまざまですが、たとえば下水管の老朽化によってヒビやすき間ができていたり、マンホール蓋に破損があったりする場合、そこに雨天時浸入水(※)が流れ込む事態が引き起こされ、前述の現象が起こるのです。※雨天時浸入水とは、分流式下水道の汚水管に雨天時に浸入する水や、地下水位以下に埋設された汚水管に浸入する水などのこと 雨天時浸入水の放置は多くのデメリットを生み出します。たとえば計画量以上の水が流れ込んでしまうと、浸水被害やポンプ場に大きな負荷がかかります。さらに、土砂堆積などが雨天時浸入水と一緒に引き込まれると、浚渫費等の管路施設維持管理の増大にもつながるでしょう。そのほか、市町村で増大した雨天侵入水によって流域負担金の増加も考えられます。雨天時浸入水によって下水道処理場への流入量が増えると、それを処理するための費用も大きくなり、結果下水道経営の圧迫にもつながります。しかし、従来の流量計や水位計を用いた下水道の雨天時浸入水検知には高額の調査・分析費がかかるため、調査範囲を限定するしかありませんでした。こうした背景を踏まえ、当社は雨天時浸入水を安価で迅速に検知することを目的に技術開発をスタートさせました。 音響データによる機械学習モデルで雨天時浸入水を予測・検知 雨天時浸入水の検知を行うために、当社は音声データに着目しました。具体的には、流水音を含む音響データの音響特徴量パターンや、無降雨時の流水音を含む音響データと、無降雨時とは異なる条件下での流水音の音響データ、その一方もしくは両方から抽出された音響特徴量パターンなどを、機械学習を使いモデル化。観測データと照合させ、雨天時浸入水の有無をAIなどを使い予測・検知します。導入後、調査及び分析費用が従来比50%程度削減できたうえに、AIを用いることで分析時間も大幅に短縮されました。この下水道雨天時浸入水検知システム研究の成果は、国土交通省の実証事業で評価を受け、特許査定を得ることもできました。 特許番号 特願2018-207773発明名称 不明水検出装置、不明水検出方法、プログラム及び不明水検出システム※国立研究開発法人産業技術総合研究所と共同特許 ◆第5回インフラメンテナンス大賞「特別賞」(国土交通省)受賞◆電波タイムズ紙(2022年3月11日 金曜日 朝刊)で紹介されました(PDF)
日本橋地域の新たな魅力創出プロジェクト
土木・まちづくり視点からの地域貢献! 東京・日本橋地域の新たな魅力創出に向けて ※弊社独自の研究として取り組んだもので、他の機関・団体は一切関係ありません。 建設技術研究所は、一般社団法人日本橋浜町エリアマネジメントの正会員として、本社が位置する浜町・人形町地域の魅力向上のため、土木・まちづくり視点からの地域貢献活動を行っています。例えば、地形・地質の成り立ちを分析したうえで、地域らしい風景の抽出、埋め立てられた浜町川の水辺復活の技術検討、スーパー堤防などの技術・法令を踏まえた浜町・隅田川一帯構想の提案などを行い、これらの成果を、日本橋地域の過去・現在を知る小冊子『日本橋地域(浜町・人形町) 歴史・文化の再発見と新たな魅力創出』としてとりまとめました。日本橋周辺では、首都高速道路の地下化などが脚光を浴びる一方で、まだ広く知られずに埋もれている地域資源・地域文化が残されています。その奥深い歴史、誇るべき文化の形成過程を、建設技術研究所らしい土木・まちづくりの視点から分析し、その隠れた魅力を解き明かすことにより、日本橋地域がより一層魅力あるまちとして持続的に発展するための可能性を提案し続けています。 日本橋地域魅力復活プロジェクト 2018~2019年の「日本橋地域特性研究」のなかで、「日本橋地域魅力復活プロジェクト」と題した章を設け、日本橋の魅力を再発見する取り組みを行いました。 ■景観・観光スポット発掘の調査研究日本橋をさまざまな角度から捉え、最終的には「日本橋風景10選」をピックアップしました。この選考前には、日本橋地域らしさの評価や、日本橋地域らしい風景の抽出などを行っています。 1.浜町公園(清正公寺)2.水天宮3.日本橋七福神(小網神社ほか)4.トルナーレ広場(新しい地域交流拠点)5.浜町緑道(浜町川復活)6.清洲橋7.大観音寺に続く町並み8.蛎殻町公園(旧有馬邸)と有馬小学校(元復興小学校)9.明治座10.隅田川プロムナード
物流研究会について
災害時やパンデミック時に重要性がさらに高まる物流について、道路交通計画や防災計画の視点から研究 当社は、苦瀬博仁研究顧問(東京海洋大学名誉教授)のご指導のもと、都市・地域の発展や災害時、パンデミック時に欠かすことのできない物流の重要性や必要性から道路交通計画の方法論ならびに災害時に備えたインフラストラクチャーやライフラインの防災計画などを研究する物流研究会を定期的に開催しています。これまでの主な研究成果は、苦瀬研究顧問の監修のもと当社社員が執筆した書籍「物流からみた道路交通計画」(大成出版社:2014年2月発行)、ならびに当書籍に新たな知見を加えて苦瀬研究顧問から当社社員にわたりリレー形式で執筆した輸送経済新聞のリレー連載「物流からみた道路交通計画(全12回)」(2015年9月~2016年6月)などがあげられます。また、これらの研究成果については、社内外でセミナーを開催するなど情報発信も積極的に行っています。ますます深刻化する多様な課題を解決すべく研究に取り組んでいます。 新聞連載「物流から見た道路交通計画」